とある法務部員の備忘録

IT企業で法務をやっている独身アラサー。法務系のネタ、英語、雑記、ブログ運営などについて自由気ままに書き綴っています。

契約審査(3)SES契約の問題点や成果物に対する責任について

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契約審査_SES契約

 SES契約とは、「システムエンジニアリングサービス契約」のことであり、簡単に言いますと、システムエンジニア(SE)のリソースをお借りして、その役務提供に対する対価を支払うという契約のことです。SEの経験や能力、工数などを考慮して単価が設定されます。

 今回は、このSES契約を巡る問題点について、あれこれと書いてみます。

 

 

SES契約とシステム開発委託契約との違い 

 SES契約とシステム開発委託契約は以下の点で異なっています。

 まず、一般的なシステム開発委託契約は、民法上の請負に該当しますが、請負契約では、「仕事の完成」が債務の内容となっており、当事者間で合意された仕事完成物の引渡しが必要となるのに対して、純粋なSES契約は、準委任契約ですので、仕事の完成は債務の内容とはならず、善良なる管理者の注意をもって、委任事務の処理(システム開発業務)に当たればそれで足りるということになります(民法第632条、第643条、第644条、第656条)。

 

 請負契約の場合、請負人は仕事の完成に責任を持たなくてはならず、目的物の引渡後においても瑕疵担保責任が課されるなど(民法第634条以下)、非常にシビアな契約類型です。そのため、請負契約たるシステム開発委託契約は、人員や工数が徒に増えて高額になるケースが多く、なるべく開発費を抑えたい発注元にとっては取りづらい選択肢となります。

 これに対して、SES契約の場合、役務提供に対する対価(人件費など)だけで済むため、開発委託契約に比べて安価であり、コスト削減に繋がりますし、自社で充足させることができない開発人員を補うことができて、一石二鳥といえます。また、受託側(ベンダー側)にとっても、仕事完成義務や瑕疵担保責任を負わないため、お互いにとってメリットが大きいわけです。

 

SES契約の問題点

 ただ、決してメリットばかりではありません。ここでは、SES契約の問題点と、個人的に最近感じた理不尽さを書き殴りたいと思います(笑)。すみません、ちょっと怒りも入っているのでご了承ください…m(__)m

 

① 偽装派遣・偽装請負の問題

 SES契約は、あくまでも準委任契約ですので、SEは、ベンダー側の指揮命令の下で業務に従事する必要があり、発注元の指揮命令系統から独立していなければなりません。

 もし、ベンダー側が、労働者派遣事業者として許認可を得ていないにもかかわらず、SEを発注元に派遣して、発注元の指揮命令に服させていた場合、労働者派遣法、職業安定法に反し、違法です。これがいわゆる偽装派遣・偽装請負の問題であり、過去に裁判でも争われているので有名ですね。

 しかし、実態としては、かなりこの線引きは曖昧になっているのではないかと思います。開発現場では、多少なりとも、発注元担当者が指示を出すこともありますし、いずれの指揮命令監督下で業務に従事しているのかよく分からないというSEさんもいらっしゃると思います。

 そのため、コンプライアンス上、SES契約はやらないという方針の企業もあるようです。もし、SES契約をご検討されているのであれば、事前に指揮命令系統を明確化し、業務管理の主従を間違えないように、現場との意思疎通を図ることが必須になるかと思います。

 

② 成果物に対する責任について

 偽装派遣・偽装請負の問題も重大ですが、SES契約において、ベンダー側(場合によっては社内の人間)といつも揉めるのが成果物に対する責任についてです。

 上述のとおり、SES契約は準委任契約ですので、仕事完成義務も瑕疵担保責任も負いません。しかし、業界的にはこの部分だけが一人歩きして、「ベンダー側は成果物に対する責任を負わなくていい」という、決して正確ではない認識が蔓延しているように思います。社内の開発責任者も、「SES契約なので、成果物の責任はこちら持ちですよね」と言ってきたりします。いや、ちょっと待て。この点について少し整理しようぜ。

 

 まずですね。仮に、契約内容からして、純粋な準委任契約だったとします。たとえ、そうだったとしても、受任者は善管注意義務を負うため、かかる義務に反して、委任事務の処理を誤り、成果物に何らかの瑕疵を生じさせれば、当該瑕疵について、受任者の善管注意義務違反を追及することは十分に可能であると思われます。この点を理解していないベンダーがあまりにも多過ぎです。

 たまに、「これはSES契約なので、成果物の瑕疵等について保証できないし、一切責任を負えない」と回答されるベンダーがおり、「もし、成果物の品質について責任を負えというのであれば、追加費用が必要となる」などと説明したりします。しかし、個人的には違和感しかありません。

 何でもいいからシステムを作れば良いというのであれば、そこらへんのSEを連れてきて、所定の作業時間に当たらせ、全く使い物にならない適当なシステムを作っても契約上の義務を果たしたということになりかねませんが、それは、善良なる管理者の注意をもって委任事務を処理したとは到底言えないでしょう。そこまで極端な話ではなくとも、要件定義に沿ったシステムを開発するという部分も含めて、受発注工数を定義しているはずです。「追加費用が必要となる」とはこれ如何に…?

 

 個人的には、委任契約において瑕疵担保責任が定められていない民法の趣旨に鑑み、委任事務の処理の過程において、受任者が善管注意義務に反して成果物に瑕疵を生じさせ、その結果、委任者が何らかの損害を被った場合、委任者としては、民法第634条に定めるような特別の法定責任を追及することは出来ずとも、受任者の債務不履行責任(民法第415条)を追及することは可能であろうと思います。

※ 近年の裁判例では、ITベンダーについて、善管注意義務の一種として、常に進捗状況を監視し、開発作業を阻害する要因の発見に努め、適切に対処するといった「プロジェクトマネジメント義務」を負うと判示するものもあります。

 

 準委任契約は請負契約よりも責任が軽い、あるいは責任を負わなくてよいと誤解しているベンダーが多いですけど、認識を改められた方が良いのでは…?と思いますね。

 

 上記については、純粋な準委任契約の話なので、まだベンダー側の言い分も分からなくはないです。

 しかし、SES契約の中には純粋な準委任契約とは言えないものもあり、当事者が別途合意することにより、仕事の完成および目的物の引渡しを定めることができるという契約もあります。要するに、準委任契約と請負契約の複合型無名契約ですね。

 仕事の完成義務を定めた場合、請負契約としての性質も有しているので、民法の請負の規定が適用されると考えられますが、この点を全く理解しておらず、「これはSES契約だから」という一点張りで、頑なに成果物についての責任を拒否しようとするベンダーもいます。

 

SES契約だから何だってんだよ…。

 

 契約の性質は当事者の意思を合理的に解釈して決せられるので、たとえ、契約書の表題が「SES契約」となっていようが、「準委任契約」となっていようが、その内容を見て、準委任契約なのか、請負契約なのか、その複合型なのかが決まります。

 中身がどうであれ、「SES契約」とさえ謳っておけば、成果物については免責されると考えているのであれば、あまりに法律に疎い安直な発想と言わざるを得ません。

 

結語

 別にSES契約に限った話ではないのですが、業界特有のルールみたいなものがあり、時にその歪んだルールが法務担当者を苦しめるときがあります。上記SES契約における成果物の責任についても、社内の人間ですら、最初はこちらの言い分が通じませんでした(今でも100%理解されているわけではないと思います)。

 この契約書シリーズでは、いずれまた業界特有ルールについて触れるかもしれませんが、今回はこのぐらいで締めたいと思います。

 

契約審査(4)はこちら↓