とある法務部員の備忘録

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契約審査(4)日本国内企業間で準拠法を定める意味

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契約審査_準拠法

 日本国内企業間での契約書の規定を見ていますと、第一審の専属的合意管轄裁判所については定めがあるものの、準拠法について定めていないものを見かけることがあります。

 私は、準拠法を定めていない理由について、たぶん2つあると思っていまして、①戦略的に敢えて規定していない、②準拠法を定める必要性を感じていない、のどちらかだと思っています。以下、それぞれについて詳述します。

 

 

準拠法規定って不要なの?

 いったん①の理由については置くとして、まず、②の理由について考えてみることにします。

 この理由は要するに、「日本国内で、日本法人どうしが取引するんだから、準拠法は日本法に決まってんだろ」という考え方です。この点、法の適用に関する通則法第7条には、「法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。」と規定されており、法律行為(契約)の準拠法は、原則として、当事者の選択(合意)に委ねられています。

 しかし、日本法人どうしが、本国である日本以外の第三国の法を選択することは通常考えられませんよね。では、何も選択しなかったらどうなるのかと言いますと、同法第8条が「前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。」と規定していることから、通常最も密接な関係のある日本の法律が適用されることとなります。

 

 このことから、②の理由に立脚する場合、日本法に準拠することは自明であることから、通則法第8条の規定に従って日本法を適用させるか、もしくは、そんな小難しいことは考えずに、「必要ないから」という理由だけで、準拠法規定を削除しているのだと想像します。

 

 しかし、この考え方は、現在且つ目前の関係性しか見えていないと思われます。

 確かに、現在の契約当事者は日本企業どうしかもしれません。しかし、今やグローバル社会であり、いつ何時、外資系企業や外国籍企業に買収されるか分かりません。取引相手は日本企業だと思っていたのに、ふと気づいたら、アメリカに本社を置く米企業に買収されていた…なんてことも十分あり得る話です。

(参考:準拠法の指定についてです。 | ビジネス初心者のための契約書入門

 

 そして、当該アメリカ企業との間で何らかの紛争が生じたケースを想像してみて下さい。事件が提起された裁判所が、自国の国際私法に従って準拠法を決定するという「法廷地法の原則」に依拠し、準拠法は、日本における国際私法たる通則法第8条により日本法だと決定される保証はありますでしょうか?「最密接関係地」が「日本」だと言い切れますでしょうか?(例えば、同法第8条第2項によれば、特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地が「最密接関係地」と推定されています。)

 そうなんです。仮に法廷地を日本の裁判所と合意したとしても、また実際に日本の裁判所に提訴したとしても、準拠法が日本法とされる保証なんてないんですよ。また、訴訟ではなく、和解や仲裁の場合なんて尚更そうです。

 

 私は、こういったトラブルに巻き込まれるリスクを避けるために、たとえ日本企業間の契約であっても(たとえ当たり前であったとしても)、準拠法を日本法とする規定を入れます(向こうの提示した契約書に準拠法規定がなかった場合、わざわざ追加します)。

 これに対し、「合併は解除事由とされていることが多く、合併のタイミングで解除すれば良い」とか、「仮に、準拠法が外国法であっても、通則法第42条により、公序良俗に反するものは日本国内では適用できない」などと楽観視する人もいるかもしれませんが、解除はあくまでも権利であって義務ではなく、双方にメリットがあると思うのであれば契約を継続しますし、公序良俗なんていう抽象的な規範をアテにするのは危険すぎるでしょう(※)。

 

(※)ただし、米国での懲罰的損害賠償など、日本国内では公序良俗に反して無効と判断されるものもあり、仮に、米国法に準拠して、米裁判所で懲罰的損害賠償を認容する判決が得られたとしても、日本国内にある資産に対して全てを執行することはできないので、そういったリスクは考慮しなくても良いという考え方や戦略はあると思います。

 

敢えて準拠法を規定しないという戦略

 では、①の理由は何なのか。以下に書くことは、あくまでも私の想像です。

 ここまで読んで頂いた方であれば、ご想像がつくかもしれませんが、当該日本法人が、外国人投資家、外資系企業、外資系ファンド等から出資を受けており(又は受ける見込みがあり)、将来的にこういった海外企業に身売りすることを見越して、敢えて準拠法を規定しないという契約上の戦略もあるのではないかと思っているのです。

 準拠法を定めなかった場合、通則法第8条第1項の規定により、原則として、日本法が適用されることになり、その後、海外企業が合併等を原因として権利義務関係を承継し、以後取引の主体となった場合は、同法第8条第2項ないし第12条の規定により、最密接関係地が取引を行っている海外と判断される余地もあり、一石二鳥だからです。

(このへんの事情に詳しい方がいましたら、是非ともご教授賜りたいです)

 

 まあ、大半の企業が、何も考えずに準拠法を規定しているか、もしくは、何も考えずに準拠法を削除していると思いますが(違ったらすみません)、普段何気なく目にしている準拠法規定について、少し視点を変えて考えてみると面白いかもしれません。

 

契約審査(5)はこちら↓