とある法務部員の備忘録

IT企業で法務をやっている独身アラサー。法務系のネタ、英語、雑記、ブログ運営などについて自由気ままに書き綴っています。

ヒカル氏の謝罪動画について(最後にします)

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 当ブログでは、以下のとおり一連のVALU炎上問題について、個人的な意見を書いてきました。

 

 9月4日付で、ヒカル氏らが謝罪動画を公開されましたが、この動画を拝見しましても感想は変わりません。本件は、ヒカル氏及びVAZ社のリスクマネジメント不足。その一言に尽きると思っています。どういう経緯だったにせよ、社会的影響力のある人のもとには、それ相応のリスクがつきまといます。そのリスクを正しく認識できず、必要十分な措置を講じることができなかったことが本件の原因ではないでしょうか。

 

 残念ながら、ヒカル氏らはYouTuberとしての活動を無期限休止するということであり、何らかの形でメディアに露出する可能性はゼロではないにせよ、動画がアップされることは当分ありません。現在、VAZ社とVALU社との間で法的紛争に発展しているとのことであり、もし訴訟になれば、新たな事実も判明するかと思いますが、この一連の騒動についての記事としては、ひとまず最後としたいと思います。

 

 

1. VAZ社内での関係性・役割など。

 「結局、リスクマネジメント不足が引き起こした問題」と、繰り返し感想を述べても仕方ありませんので、最後は、内部統制上の組織マネジメントの問題について考えてみます。すなわち、VAZ社としては、ヒカル氏らと協働するにあたって、どのような経営体制を敷くべきだったのかという点です(これについては、情報が不足しているため、私の推測が多分に含まれています。ご容赦ください)。

 なお、会社法の視点に基づいて記事を構成していますが、VAZ社が不法行為責任の主体となるかといった議論はまた別の問題であり、本記事では深くは立入りません。

 

(1) ヒカル氏とVAZ社との関係

① ヒカル氏がVAZ社にアサインし、NextStageを結成するまでの経緯

 ヒカル氏が過去に公開した動画内での発言を参照すると、当初、VAZ社の森代表が、ヒカル氏に新事務所設立の話を持ち掛け、これにヒカル氏ら(ラファエル氏、禁断ボーイズ)が乗っかかる形で、NextStageという事務所が設立されたと発言していたように記憶・認識しています。

 但し、「事務所」という表現を使用していますが、UUUMとは異なり、それ自体独立した法人ではなく、VAZ社内で結成されたユニットグループのような位置づけであると思われます。例えて言うのであれば、ジャニーズ事務所内での「嵐」や「TOKIO」みたいな存在ではないかと。

 

② ヒカル氏のVAZ社内での役職・ポジション

 その後、ヒカル氏は、VAZ社の執行役員に就任しています。通常、執行役員は、従業員のうちの誰か(社内で重要なポジションにある上位役職者など)が任命されることが多いのですが、ヒカル氏とVAZ社との契約関係は不明です。

 この点、VAZ社は、ヒカル氏らYouTuberのことを「当社所属YouTuber」「当社所属クリエイター」などと呼称しており、ここから推測するに、専属的・独占的なタレント契約のようなもの(※1)を結んでいたのではないかと想像します(そうでなければ、「当社所属」とは言わないでしょう)。ただ、信頼ベースでの取引ではありがちですが、口頭だけで話を進めて、契約書が存在しないという可能性も勿論あります。これは後述の井川氏も同様です。

(※1)例えば、VAZ社が企業案件を引っ張ってきて、それをヒカル氏らに提供するかわりに、ヒカル氏らは、VAZ社以外との間で代理店契約を締結しない…など。独占的代理店契約と言った方が分かりやすいかもしれません。

 

 まあ、その点はさておくとしても、「執行役員」とは、取締役会などの会社上層部が決定した事項を執行する役割を担う現場責任者などを指します。「役員」という文言が入っていますが、会社法上の概念ではなく、取締役などの会社法上の「役員」とは異なります。ただの社内外の肩書き(敬称)であり、登記事項でもありません。取締役の下で業務執行に当たりますが、会社の意思決定を行うわけではありません。但し、法人税法上は、このような執行役員についても、会社経営に従事している場合は、役員とみなされることがあります(いわゆる『みなし役員』)。

 もし、この「執行役員」という肩書きを額面通りに受け取るならば、ヒカル氏は、重役ポジションにいきなり就いたということになります。普通のサラリーマンだったら大出世です。会社の意思決定までは出来ないものの、かなり大きな裁量を持ち、会社にも大きな影響力を及ぼすことができるポジションです(もし額面通りだったらね)。

 

(2) 井川氏とVAZ社との関係

 もう1人の重要人物である井川氏とVAZ社との関係についても考察するに、井川氏の肩書きは「顧問」であり、これも会社法上は何の意味もありませんし、明確な定義もありません。

 一般的には、「顧問弁護士」「顧問税理士」のように、外部の専門アドバイザーのような存在を指す際の肩書きです。通常は、そのような外部アドバイザーとの間で、アドバイザリー契約とか、コンサルタント契約とか、顧問契約(委任契約、準委任契約)を締結します。

 

 井川氏とVAZ社との契約関係も不明ですが、井川氏はYouTuberではないため、上記ヒカル氏とVAZ社との関係とは異なります。これも推測でしかありませんが、井川氏は、ヒカル氏のビジネスに関する師匠に当たる存在であり、ヒカル氏の推薦により、VAZ社の経営に参画したのではないかと思っています。

 ただ、井川氏は、NextStageのマネージャーを務めていたとのことであり、NextStageのオフ会の運営等のほか、自身の人脈を活かして、ヒカル氏の人脈づくりに協力するなど、ヒカル氏らNextStageのメンバーの活動をサポートするような裏方の役割を担っていたのではないかと想像します。

 

(3) 小活

 以下、ヒカル氏とVAZ社との間には、専属的なタレント契約のみが存在し、井川氏とVAZ社との間には、NextStageのマネジメントなどに関するアドバイザリー契約(コンサルタント契約)のみが存在したと仮定します。

 要するに、ヒカル氏は、VAZ社の看板タレントでありつつ、業務執行権限を有する現場の重役、井川氏は、そのような看板タレントをマネジメントする外部アドバイザーというポジションです。いずれも社内では重要なポジションですね。

 

 但し、会社法上は話が別です。ヒカル氏・井川氏に付与された「執行役員」や「顧問」という肩書きは、単なる敬称にすぎず、彼らは、VAZ社の取締役の地位にないため、株主や会社に対して、会社法上の責任を負う立場になく、VAZ社を代表できる権限を有していません。

 つまり、会社法上(内部統制上)は、取締役の監督支配下に置かれ、取締役の指示に従って行動しなければならない立場にあったと言えます。もし、自らの監督支配下にある執行役員等が、会社に損害を与えたとなれば、取締役は、管理監督を怠ったことによる任務懈怠責任などを追及されうるケースだと思われます。

 

2. 取締役による管理監督は及んでいたか。

 では、取締役によるヒカル氏らに対する管理監督は及んでいたのでしょうか。この点につきましては、森代表の発言などを参照しつつ、以下のとおり整理します。

 

(1) 日常的な業務管理体制について

 森代表は、「所属するクリエイターの活動について逐一報告するようにという体制は取っていません。ですから、新しいSNSを始めることについても、今まで追及してこなかった。」と、メディアのインタビューに答えていることから、ヒカル氏らに限らず、所属YouTuberの自主性を尊重し、その活動の細部を管理するような体制は、会社の方針としても取っていなかったということが伺えます。

 但し、「ぼったくりガチャ」のように、VAZ社とヒカル氏が連携してリリースしているアプリもあり、時として、お互いが意思疎通を図りながら協働するということも勿論あっただろうと思います。

 

(2) VALU問題について

 VALU問題について、森代表は、ヒカル氏らがVALUに登録していたことは知っていたが、企画の趣旨は知らされていなかったと発言しており、会社のトップにすら情報がほとんど共有されていなかったことが分かります。事実、謝罪動画の中でも、一度も森代表の名前は出てきません。

 また、本件にアドバイザーのような役割で関わっていたとされるVAZ社従業員も、下記インタビュー記事に掲載されているVAZ社の回答によれば、業務としてではなく、個人的に関与していただけとのことであり、VALUを利用した企画は、VAZ社内でコンセンサスを得られたものではなく、ヒカル氏、井川氏らの独断によって進められていたことも分かります。

 

 さらに、謝罪動画内でのヒカル氏の発言によれば、VALUについての相談相手は、井川氏や、個人的に関与していたとされるVAZ社従業員、VALUと密に繋がりのある人物であり、その他VAZ社の責任者に相談・報告するといったことはなかったということが伺えます。

 その結果、ヒカル氏らがVALUを売却し、騒動が大きくなるまで、森代表は事態に気づかないという状況でした(しかも、ツイッターなどで大きな騒動になっていることを友人から知らされて、事態の大きさに気づいたとのことであり、ヒカル氏・井川氏らから連絡を受けて気づいたわけではない)。

 このことから、VALU問題についても、取締役による管理監督が及んでいたとは到底言えないと思われます。

 

(3) 肩書き・職位の対外的使用について

 もうひとつ重要なことは、ヒカル氏らは、対外的に「VAZ社の執行役員や顧問であること」を公言し、「VAZ社の関係者」として行動していたという点です。

 彼らが「VAZ社の関係者」であることに違いはないと思いますが、上述のとおり、代表権限を有しておらず、VAZ社を代表できる地位にありません。もし、VAZ社名義で何か取引を行うのであれば、VAZ社から別途代理権を付与されている必要があります(もし、VAZ社の従業員(使用人)だったのであれば、VAZ社の社内ルールに則って、決裁権者による承認が必要となります)。

 

 VALU問題におきましても、VALU社が、ヒカル氏の謝罪動画に呼応して公開した反論文によると、やり取りを行っていた相手方について、「VAZ社側の関係者」や「VAZ社」という表現を用いていることから、VALU社とやり取りを行っていた人物(誰であるかは分からない)は、VAZ社所属のYouTuberをVALUにアサインして、企画をやるということが、VAZ社内でコンセンサスを得られた決定事項ではないにもかかわらず、あたかもVAZ社内で決定された事項であるかのように装って連絡を行っています(※2)。

(※2)但し、VALU側は、ヒカル氏と直接のやり取りを行っていないとのことであり、これが真実だとすれば、連絡を行っていた人物は、ヒカル氏以外の者ということになります。

 

 このあたりは事実関係が極めて不透明ですが、もし仮に、ヒカル氏・井川氏らが、VAZ社の商号を使用して営業活動等を行い、VAZ社から付与された肩書きを利用して、あたかもVAZ社を代表する権限を有しているかのような言動を行っていることを、VAZ社の取締役が認識しつつ、これを黙認・放置していたのだとすれば、虚偽の外観作出に関与したものとして、非常に大きな問題になるものと思われます(※3)。

(※3)場合によっては、商法第14条(名板貸人)や、会社法第354条(表見代表取締役)の類推適用なども問題になる可能性があると思われます。

 

3. VAZ社の組織マネジメント上の誤り

 以上をまとめますと、

  1. 両者間の契約関係は定かではないが、ヒカル氏らは「執行役員」や「顧問」といった社内の重要ポジションに就いていた。但し、会社法上の役員としての責任を負わず、会社を代表する権限も有していない。
  2. VAZ社の取締役は、そのような要職の地位にあるヒカル氏や井川氏を十分に管理監督出来ていなかった。

 

 ということになるかと思います。

 …まずですね。VAZ社としては、別に、ヒカル氏や井川氏を、自社の専属YouTuberや執行役員や顧問にせずとも、外部委託先のひとつと位置付ければ良かったと思います。

 ヒカル氏や井川氏が、VAZ社の要職につく人間として、VAZ社を代表するかのような行動に及んだがために、現在、VALU社とVAZ社との間で大きな揉め事になっていますが、そんなポジションを付与せず、お互いが独立した存在であれば、本件も、VALU社とヒカル氏ら個人との間の問題になっていたはずです。

 組織マネジメント上、会社のコントロールが及ばない人物を社内の要職に就かせることほど大きなリスクはありません。超特大の爆弾を抱えているようなものです。

 

 どうしても、ヒカル氏ら人気YouTuberを独占したいのであれば(あるいは、ヒカル氏らがVAZ社の経営への参画を望んだのであれば)、株主を説得して、ヒカル氏や井川氏を取締役として迎え入れて、経営責任を負わせるか、あるいは、ヒカル氏らに対して、自社のコントロールを及ぼす方法を考えるべきだったと思います。

 例えば、NextStageのマネジメント責任者に、自社の人員を設置し、適宜、取締役などの役員に対して、活動内容や問題点を報告する仕組みを作るなど(どこの企業でも当然のようにやっていることです)。NextStageは、VAZ社の売上にも相当貢献していたと想像しますが、その業務内容を、代表者が把握できない時点で、内部統制上は大問題だと思います

 

 VAZ社は、資本こそ大きいものの、設立年数が浅い(2年程度)スタートアップ企業であり、危機管理体制が十分に整備出来ていないにもかかわらず、自社の予想に反して、売上規模が爆発的に伸びてしまったがために起こってしまった悲劇という見方もできます。

 今回の件を踏まえ、井川氏は顧問を辞任し、ヒカル氏らは無期限活動休止、NextStageの解散と、怒涛の展開となりましたが、VAZ社にとっては、組織体制を刷新する絶好の機会なのかもしれません。今後の展開についても関心をもって見ていきたいと思います。

 

※ 本記事は筆者の推測や解釈が多分に含まれています。もし、重大な事実誤認等ございましたらご指摘頂けますと幸いです。