とある法務部員の備忘録

某IT企業に勤めるアラサー法務。法律、時事問題、英語、雑記、ブログ運営などについて自由気ままに書き綴っています。

関学大と日大のアメフトの試合に関する刑法上の視点など。

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 先般、話題となっている関学大と日大とのアメフトの試合で起こった危険なラフプレーについて、関学大が、日大に公式謝罪を求め、指導者による指示によるものかどうか、原因の究明を求めるのは当然すぎるほどに当然です。

 

 報道によりますと、問題となるラフプレーを行った日大の選手はアメフト部を退部することになったそうですが、本日は、問題となった試合について、刑法上の問題点に触れながら、スポーツの指導者が担うべき役割・責任について言及したいと思います。

 

 

1. スポーツ傷害が罪にならない理由

 アメフトは、選手同士が激しくぶつかり合う非常に激しいスポーツですが、もし仮に、ルールの範囲内でプレーした結果として、出場選手が傷害を負った場合であっても、ご存知のとおり傷害を負わせた選手は罪に問われません。このようないわゆる「スポーツ傷害」は、刑法第35条に定める「正当行為」として違法性が阻却されるからです。

 

刑法第35条(正当行為)

法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

 

 ボクシングなどの格闘技においても、正当行為に該当することを理由として、相手に傷害を負わせても罪に問われません。私生活上の暴行とスポーツ行為は、質的に全く異なるものなのです。

 ただし、スポーツ傷害に関して、刑法第35条の正当行為ではなく、いわゆる「被害者の同意」に違法性阻却の根拠を求める見解も有力ですが、本日の記事では、正当行為による違法性阻却を念頭に置いて論を進めます。

 

2. 正当行為として違法性が阻却されるための要件

 スポーツ傷害が正当行為に該当するものとして違法性が阻却されるとしても、いかなる場合でも罪に問われないというわけではありません。正当行為として認められるための要件があります。

 この点、スポーツ行為が「正当行為」として違法性が阻却されるためには、①スポーツを行う目的の下、②ルールを遵守して行われ、③相手方の同意の範囲内で行われることを要件として判示したもの(大阪地判平成4年7月20日 判例時報1456号159頁参照)があります。以下詳述します。

 

 まず、最初のスポーツ目的要件(①)について。

 例えば、単なる「しごき」目的で行われた部員に対する暴行が問題となった「ワンダーフォーゲル事件」では、部員に対する暴行は、スポーツ目的で行われたものとは認められず、刑法35条の適用は否定されています(東京地判昭和41年6月22日)。この理に鑑みれば、プロ野球における乱闘などは、もはやスポーツを行う目的ではないので、正当行為には当たらないと思われます。

 

 次に、ルール遵守要件(②)について。

 仮に、スポーツを行う目的であったとしても、ルールを遵守しなければならないことは言うまでもありません。既にゴングが鳴って、レフェリーがストップしているにもかかわらず、相手を殴り続けてケガをさせたら、もはやスポーツ性は否定され、正当行為とは認められません。このように、判例は、ルールの範囲内でスポーツ行為を行うことを要求しています。

 

 最後に、相手方の同意要件(③)について。

 「相手方の同意の範囲内で行われること」も重要な視点です。スポーツ目的で行われ、それがルールの範囲内だったとしても、例えば、相手がルールを理解していないような初心者であった場合において、それを分かったうえで、手加減無しでタックルしたり、殴ったりしてケガを負わせたら、正当行為とは認められない可能性があります。相手はルールを理解していないので、同意があったとはいえず、スポーツの範疇を超えたものとみなされるからです。

 

 以上のように、判例は、スポーツ行為を行う主体の主観(スポーツ目的)、スポーツ行為の相手方の主観(同意)、スポーツ行為の態様(ルールの範囲内)という観点から、総合的に正当行為に該当するかどうかを判断しています。

 

 翻って、今回のアメフトの問題を考えてみるに、冒頭にも述べたとおり、アメフトは選手同士が激しくぶつかり合うスポーツです。そのため、このようなスポーツの特性を理解したうえで、試合に出場していた関学大のQBの選手も、ルールの範囲内においてタックルされることは同意していたといえますし、その限りにおいてケガを負ったとしても、日大の選手の行為は、正当行為として特に問題はなかったでしょう。

 しかし、危険なタックルをした日大の選手が、もし、関学大の選手を痛めつけることだけを目的としていたのであれば、スポーツ目的ではなかったと言えます。実際、どのようなことを考えていたのかは不明ですが。

 また、ボールを持っていない選手に対するタックルや背後からのタックルは、ルール上禁止されているので、日大の選手は、ルールを逸脱したスポーツ行為に及んだことになりますし、ボールを投げ終わった後の無防備な状態でタックルされることまで、関学大のQBの選手は同意していないでしょう。

 そのように考えていきますと、今回の危険なタックルは、正当行為として違法性が阻却されるものではないと思われます。

 

3. 危険なプレーを伴うスポーツにおける指導の重要性と指導者の責任

 ここから先は法律論を離れますが、今回の騒動を受けて、私が思うことは、危険なプレーを伴うスポーツに従事する上位者(監督、コーチなど)の指導がやはり重要であるということ。

 なぜなら、危険なラフプレーによって、選手たちの身体・生命の安全が脅かされるという点もさることながら、一歩間違えれば、選手が犯罪者になってしまう可能性も秘めているからです。このことは、スポーツ傷害が正当行為と認められるための判例の規範を見ていても明白であり、危険なプレーを伴うスポーツに従事する指導者は、選手に対して、しっかりとルールを理解させたうえで、ルールの範囲内でプレーすることを徹底させなければなりません。それが、相手チームの選手だけでなく、自チームの選手を守ることにも繋がります。それだけの重い責任を負っているのです。

 

 もし、そのことを深く認識せず、ちゃらんぽらんな指導者だったとしたら大変なことになります。「ボールを持っていない無防備な選手に、背後からタックルを仕掛けろ」などと、ルールを無視するようなことを指導していたとしたら、スポーツとして成立しないばかりか、相手チームの選手を危険な目に遭わせ、加えて、自チームの選手が犯罪者になってしまいかねません(もちろん指示を出した本人も)。

 危険なプレーを伴わないスポーツだったら、別にちゃらんぽらんな指導者でも良いという意味ではありませんが、その責任の重さは比にならないのです。

 

4. むすびに

 危険なプレーを伴うスポーツに従事する指導者が、上記のような重い責任を負っているがゆえに、冒頭において、私は、「指導者による指示によるものかどうか、原因の究明を求めるのは当然すぎるほどに当然」と申し上げました。

 もし、今回の一件が指導者の指示であったとしたら(故意だったとしたら)、「ごめんなさい」では済まないからです。日大アメフト部の存続だけでなく、選手・監督の刑事責任の追及、被害を受けた関学大の選手による損害賠償請求など、問題が更に拡大していくことは想像に容易いです。