とある法務部員の備忘録

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<判例>司法修習生給費制廃止違憲訴訟判決について(東京地判H29.9.27)

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給費制廃止_違憲

 裁判所法の改正により、司法修習生の給費制を廃止したことが違憲であると主張して提起されていた一連の訴訟について、9月27日、東京地裁は原告らの請求を棄却する判決を下しました。同様の判決は、広島地裁、大分地裁でも下されています。

 

 本日は、司法修習生の給費制廃止をめぐる憲法上の問題点等をあれやこれやと書いてみます。なお、本判決の全文は こちら から見れます。

 

 

事案の概要

 本件訴訟において、第65期司法修習生である原告らの主張を概略すると以下のとおり。

 

  1. 裁判所法改正によって司法修習生の給費制を廃止したことは、給費制および原告らの給費を受ける憲法上の権利を侵害するものであり、平等原則にも反するものとして違憲。
  2. 裁判所法を改正したこと及び給費制を復活させなかったことは立法不作為として国家賠償法上違法。
  3. 司法修習生が司法修習に従事することは憲法29条2項の「公共のために用ひる」ことに該当し、同項の損失補償の対象となる。

 

 

 なお、原告らは、

本件訴訟を通じて,原告ら個々の司法修習生に対する人権侵害による自らの被害の回復に留まらず,志半ばで法曹の道を断念した者の声を代弁し,今後法曹を目指す者への助力となるべく,被告に対して,三権の一翼を担う司法制度の意義とそれを支える法曹養成制度の在り方を問い,被告は,志ある人材が経済的事情により法曹を目指すことを断念せざるをえない事態を招くことのない法曹養成制度を確立し,国民の権利擁護を担う法曹の多様性を確保し将来の法曹を支える人的基盤である司法修習生を十分な環境の下で教育を行う憲法上の義務を負い,その義務の一環として給費制を維持すべきであるから,上記各請求をするものである。

 と主張しています。

 「志半ばで法曹の道を断念した者の声を代弁し」って、いつの間にか代弁されていたんですね(笑)別に給費制廃止を通して昨今の司法制度の問題を代弁して欲しいという気持ちはないけれども。。

 

判旨+コメント

 ここから先は、判決文に即しつつ、コメントを付けていきたいと思うのですが、かなり長文に及ぶため、「給費を受ける権利は憲法上保障された権利か」「給費制廃止は平等原則に違反するものかどうか」という論点だけ抜粋します。

(給費制は憲法上保障された制度かという興味深い論点もありますが、立法裁量論の話になるのはある意味予想通りだったので割愛します)

 

給費を受ける権利は憲法上保障された権利か

 まず、司法修習生が公務員に準じる地位にあるとして、給費を受ける権利の根拠を憲法15条に求めた点については、

憲法が具体的な法曹養成制度の在り方について何らかの定めをしているとは解されないし,何ら憲法が法曹養成制度について定めていない以上,立法事項として創設された法曹養成制度の結果から何らかの憲法上の権利が基礎付けられているとはいえない。

 としたうえで、「司法修習は,司法修習生の公的な職務として行われるものではない」「修習専念義務は,…給費制に基づく給与と何ら対価関係に立つものではない」などとして、司法修習生の公務員としての性格や、公務員に準じる地位を否定しました。

 

 気になるのは、「司法修習生は,国家公務員ではないところ,自らが法曹資格を得るために国の行う司法修習を受けて,司法権を担う法曹という高度に専門的な能力が必要とされる資格を得るにふさわしい能力を修得すべき地位という,いわば特殊な法的地位にいる」と判示した点。「特殊な法的地位」というぐらいですから、何か法的根拠があるはずなんですが、この点について裁判所は「司法修習の本質から導かれる修習専念義務の由来」としか説明しておらず、随分と乱暴な言い方だなと思います。

 「特殊な法的地位」と聞くと、特別権力関係論みたいなものを思い出すんですけど、公務員の労働基本権についても、判例は、特別権力関係論を放棄して、公共の福祉による内在的制約説に修正しています。しかし、本件では、司法修習生の「公務員としての地位」、「公務員に準じる地位」を否定したがゆえに、「公共の福祉による制約」を使えなくなってしまい、法曹養成制度を司法権の実効的機能性の確保という憲法上の要請と結びつけることで、「特殊な法的地位」なるものを(苦し紛れに)導き出したとしか思えません。かなりアドホックな判断ですね。

 

 続いて、憲法13条(幸福追求権)、22条1項(職業選択の自由)、25条(生存権)、27条1項(に根拠を求める主張についても、バッサリと否定。一部抜粋しましょう。

司法修習が法曹となるために原則として必要となる過程であること,法曹が憲法上明記された司法権を担う存在であることを踏まえても,憲法13条が法曹となるための司法修習を受けるときに給費を受ける権利を認めたものであると解することはできず,原告ら主張の権利を保障したものであるとは解されない。

原告らの主張は,その実質において,前記アで説示した権利(幸福追求権)の主張と同様であるところ,憲法22条1項の定める職業選択の自由が,自らが選択した職業になるための必須の過程について,給費を受領しながら行うことができることまで保障したものであるとは解されないから,原告らの主張は採用できない。

(括弧内は筆者が付け加えたもの)

旧法に基づいて支給されていた給与は,生活保障のためではなく,立法政策上支給されていたにすぎず,また,…新64期生に支給されていた給与額は,月額20万4200円であり,「最低限度の生活」の保障の趣旨ではないことは明らかであって,憲法25条の定める生存権を保障する趣旨のものであるとはいえない。
また,修習専念義務が司法修習の本質から導かれるもので,合理的制約であるところ,同条が,自らが選択した職業になるために必須の過程における生活のための費用まで保障したものであるとも解することはできないから,原告らの主張は採用できない。

 

 いずれも「司法修習が法曹になるための必須の過程」であることを強調して、原告らの主張を退けています。

 憲法13条・22条1項の論点はさておくとして、生存権について、「新64期生に支給されていた給与額は,月額20万4200円であり,「最低限度の生活」の保障の趣旨ではないことは明らかであって」と言い切っていますが、え?おかしくない?埼玉県和光市(1級地-2)を基準とした場合、例えば、30歳の夫婦と4歳になる子どもの3人世帯の生活保護費(生活扶助費+住宅扶助費)は18万9725円です(もし計算が間違っていたらすみません)。もちろん世帯人数が増えれば、生活保護費はもっと増えます。「月額20万円だから、「最低限度の生活」の保障の趣旨ではない」って、金額の問題じゃないと思うのだけれど?

 

給費制廃止は平等原則に違反するものか

 要するに、給費制廃止前の新64期生との間で不合理な差別が生じているという主張です(現行65期生、裁判所書記官修習生との間の差異については割愛します)。この点について判例は、

給費制ないし本件権利(給費を受ける権利)は,憲法上保障されたものではなく,法曹養成の方法に関しいかなる制度を採用するか,当該制度の具体的内容をどのようなものにするかといった事柄については,立法府の政策的な判断に委ねられている。この中で司法修習にかかる負担を軽減するために,経済的支援をするか否か,するとしてもどのような方策を講じるかについても,経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況,国家の財政事情,他の政策等を踏まえて検討される必要があり,立法府の政策的な判断に委ねられており,原告らと新64期生との間での区別に合理的理由があるか否かは,上記裁量を前提に判断されるべきである。

(括弧内は筆者によるもの)

 としたうえで、次のように判示しています。

(司法修習生に対する給費制度は)司法制度改革全体の財政上の問題もあったところ,司法制度改革全体にどの程度国家予算を配分するかも含めて,予算をどこに割り振るのかは,予算編成権を持つ国会に委ねられているところ,司法制度改革全体の中で,法科大学院制度への資金投入等もある中,増加が予定されている司法修習生への経済的支援について,財政的理由で給費制を維持することは困難であると判断することに合理的理由がないとはいえないし,給費制の代わりに導入された貸与制についてみても,一般の貸与制度に比べて有利なものであるし,修習専念義務等を踏まえても,司法修習期間中の生活を維持することが可能なのであって合理的なものであるといえる。

そして,平成22年法改正によって給費制廃止の不適用期間が1年間とされたことにより,新64期生は給費を受けることができ,新65期生は給費を受けることができなかったが,これは実施時期に関する差異であつて,その差異には合理的理由がないとはい
えない。したがって,原告らと新64期生との間における差異に合理的理由がないとはいえず,同差異に憲法14条1項違反はない。

(下線は筆者によるもの)

 

 財政上の問題であるという点に触れ、国会に予算編成権が付与されているという立法裁量論を持ち出すことで、両者の差異についての合理性の判断をかなり緩やかに審査しています。経済政策的な要素の強い立法内容について平等原則が争われる場合は、厳格度を落とした合理性基準によるべきとする見解に依拠しても、本件は緩やかな基準の下で合憲と判断される事案だったのでしょう。

 ただ、審査密度は薄い。水とカルピス原液の比率が9.5:0.5っていうぐらい薄い。貸与制度は一般の貸与制度に比べて有利だと言いますが、返済が始まる修習5年後における平均収入や弁護士の廃業率などを見なければ、必ずしも「有利」とは言い切れないし、今奨学金を返済できない若者が急増している現状をどう見ているのでしょう?「無利息でお金を借りれるって最高やん。全然不合理ちゃうよな!」って、皆等しく就職できて、等しく給料が上がっていった時代の話でもしているの?

 

まとめ

 本判決は、別段目新しい判断が下されたものでもないですが、「司法修習生の法的地位」という新たな論点が抽出され、法曹養成制度の意義や機能に言及した点で価値があると思います。ただ、ところどころ意味不明ですね。

 最高裁まで争われると思いますが、その頃には、「貸与されたお金を返済できない」という方が多くいるやも知れず、判断が異なる可能性はあると思っています。今後に注目です。