とある法務部員の備忘録

IT企業で法務をやっている独身アラサー。法務系のネタ、英語、雑記、ブログ運営などについて自由気ままに書き綴っています。

インターネット上のダフ屋行為の規制について

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 ヤフオクが、転売目的で入手されたチケットを出品禁止とするガイドライン改訂を行いましたが、ネット界隈では、様々な反応がありますね。「転売目的かどうかなんて、どうやって判断するんだ?」など。

 当該ガイドラインには、「転売する目的で入手したと当社が判断する」とあるので、ヤフーさんのさじ加減で決まるのでしょう(チケットの出品回数・頻度など、何かしら基準はあると思いますが)。

 

 チケットの高額転売の主戦場となっていたヤフオクにおいて、このような規制がなされたことにより、今後より一層インターネット上でのダフ屋行為に対する議論は熱を帯びていくと予想しますが、これについては周知のとおり様々な問題があります。

 なお、本記事において「ネットダフ屋行為」とは、インターネット上において、最初から転売する目的でチケットを購入する行為や、そのようなチケットを高額で転売する行為のことを指します。

 

 

ネットダフ屋行為を法的に規制できるか?

 私は、ネットダフ屋行為について、抜本的な解決策は法規制を及ぼす以外にないと思っていますが、そのような法規制を本当に実現できるかは疑問です。

 最初から転売目的で購入することも、それを転売することも、自由経済社会においては私人の自由であり、ネットダフ屋行為のみを規制する合理性が見当たらないからです。リアルダフ屋の場合は、つきまとい行為や購入強要行為を伴うため、公衆の安心・安全の保護という理由をこじつけることも可能ですが、ネットダフ屋行為にこの理は通じないでしょう。

 

 ただし、下記gktojoさんがご紹介されているイギリスの「Consumer Rights Act 2015」のように、チケットの転売時において情報提供義務を課すといった規制は、日本でもあり得るとは思いますが。。

gktojo.hatenablog.com

 

 結局のところ、当面は、ヤフオクのように、セカンダリマーケットが自主的な規制を行うか、販売者側が転売ヤーを排除するための方策を検討するなどして、チケット転売問題と向き合っていくしかないのだと思います。

 

経済学者や経済ジャーナリストの視点

 経済学者や経済ジャーナリストは、どちらかと言うと、ネットダフ屋行為の規制や取締りに批判的な記事を書かれたりしています。ツッコミどころは満載なんですけどね。例えば、筈井さんという経済ジャーナリストが執筆された記事がこちら。

news.infoseek.co.jp

 この中で、大阪大学の大竹文雄教授の見解に言及し、大竹教授は、抽選制度の場合だと、抽選に外れた熱烈なファンは、転売ヤーからコンサートチケットを入手する便益を受けることができるといった点で、転売ヤーの存在意義を認め、

 

「アーティストにとっても、大したファンでもないのに、偶然チケットの抽選に当たった人たちがコンサート会場に交ざっているよりも、熱烈なファンでコンサート会場が埋め尽くされている方がうれしいのではないだろうか」

 と主張。これに対し、筈井さんは「この指摘は正しい」と無条件で認めていますが、え?そうなんですか?抽選って、ファンクラブなどに入会されている方の中から選ばれるんですよね?「大したファンでもない」人が、「偶然チケットの抽選に当た」るという想定自体がおかしくないですかね?

 

 また、↓こちらの記事では、「チケット転売は、経済学的にはOK」と主張。

gendai.ismedia.jp

 そもそも、主催者側がチケットの市場価値をはき違えているのが原因であると指摘。チケット販売をオークション方式にすれば、転売しようとする人の利ざやをゼロに収束させることができ、定価販売よりはるかに転売目的の人の排除につながるとしています。

 確かに、これは経済学的には正しいんでしょう。定価の何倍もの価格で転売しても、取引が成立してしまうから転売ヤーが暗躍するのであって、完全競売方式にすれば、最初からチケット価格が吊り上がり、転売ヤーにとってチケットを転売する旨味はなくなります。

 

 しかし、オークション方式で得をするのは、主催者とお金持ちのファンだけであり、金銭的に裕福ではないファンや、もっと色んな層のファンに来て欲しいと願うアーティストなどにとってはデメリットしかないですね。

 ちなみに余談ですが、ビリー・ジョエルは、自身のライブの最前列には気取ったお金持ちしか来ず、本当に来て欲しいと願う熱狂的なファンが最後列に追いやられていることに気づき、最前列のチケットの販売をやめ、これを最後列のファンに配布するという男前な行動をとっています。

www.billboard.com

 

オリラジあっちゃんの構想

 そんなこんなで、電子チケットの発行、顔認証システムの導入、主催者側による公式二次流通サイトの形成など、ネットダフ屋行為を排除するための方策が取り入れられていますが、個人的に面白いと思ったのは、オリラジ・中田さんが発案した「ジャスト・キャパシティ・システム」。

lineblog.me

 さすがあっちゃん。チケット転売における問題の本質を論理的に分析したうえで、この方法を考案されています。

 簡単にまとめると、①複数の会場を仮押さえた状態で、チケットの販売上限数を決めずに、とりあえず販売開始→②チケットの売れ行きから観客数を予測して会場を本決定→③実際に売れた数に応じて、座席数を決定…という流れ。これならチケットが売り切れることもないし、全員定価でチケットを入手できるので、チケットの転売が成立しません。転売ヤーさん、残念!ってわけですね。

 

 ただ、中田さん自身が認めているとおり、このジャスト・キャパシティ・システムが通用するのは、規模の小さいライブだけであり、1回で何万人も集まる超人気アーティストのライブやコンサートでの導入は無理でしょうね。。

 

個人的に思うこと

 ネットダフ屋行為は、随分と昔から問題視されており、昨年にはアーティストたちがチケットの高額転売に反対する声明を出しましたが、このようなタイミングでヤフオクがガイドラインを改訂したのは、音楽業界全体でライブ興行の市場規模が拡大していることが大きく関係していると思われます。

この10年で市場は3倍、好調なライブビジネスの影に隠れた本質的な課題<エンタメ×ITの未来>まつだかついちろう - 幻冬舎plus

 

 CDは売れないかわりに、ライブは順調。そうなると、ますます転売ヤーの暗躍が懸念されますが、ライブ興行市場を拡大していくためには、転売ヤーの存在は邪魔でしかありません。主催者側には一銭も転売益は入らず、大切なお客様であるファンのお財布にも限界があるからです。

 ヤフオクは、チケット転売によって得をする側ですが、音楽業界から相当な圧力が掛かっていたのではないかと想像します。ヤフオク自体が「転売をする場所」であり、転売目的を否定することは、自分たちのビジネスを否定しているに等しく、今回の改訂はそういう時勢に逆らえなかった末の苦渋の決断と考えるのが自然です。

 ネットダフ屋行為に対する今後の法規制や業界の動向に注目していきたいと思います。