とある法務部員の備忘録

某IT企業に勤めるアラサー法務。法律、時事問題、英語、雑記、ブログ運営などについて自由気ままに書き綴っています。

紛らわしい法律英語の使い分けについて

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  法律英語の中には、似たような意味をもつ単語が複数あるために、使い分けが紛らわしいものがいくつかあります。

 そこで、本日は、英文契約などで見かけることの多い単語のうち、使い分けが紛らわしいものをいくつか取り上げ、その違いを検証していこうと思います(なお、検証にあたっては、コモン・ローをベースにしています)。

 

 

① action, suit

 actionとsuitは、いずれも日本語に訳すと「訴訟」という意味の単語です。

 田中英夫先生の「英米法辞典」を紐解きますと、action(action at law)は、コモン・ロー上の訴訟を意味し、エクイティ上の訴訟であるsuit in equityと区別されてきたとあります。これが従来までの用法だったようです。

 

 しかし、コモン・ローとエクイティの概念の融合により、両者を区別する意義が失われてきているらしく、これを特に区別することなく、「訴訟」と訳したとしても全然間違いではありません。

 ただ、田中先生によれば、suitについて、広義かつ今日における通常の意味では「裁判手続一般」を指すらしいです(刑事手続を指す場合もあるが、普通は民事手続を指す)。

 

② breach, violation, infringement

 これらは、いずれも「違反」とか「侵害」と訳することのできる単語です。

 私自身、この違いはかなりニュアンス的なものだと思っており、感覚的に言いますと、以下のような分類になるような気がしています。

  • breach:契約などの私的な約束を破るという意味
  • violation:法令や規則などの公的なルールを破るという意味
  • infringement:知的財産権などの権利を侵害するという意味

 

 実際、英文契約においては、↑こういう風に使われることが多い印象を受けます。もっとも、これらの違いにかかわらず、訳する上では「違反」「侵害」としておいて特に問題はないと思われます。

 

③ termination, cancellation

 ちょっとややこしいのが、termination と cancellationです。 

 いずれも「解除」という意味で用いられますが、田中先生の英米法辞典によりますと、terminationが「契約違反以外の事由による解除」や「期間満了による終了」を指すのに対して、cancellationは「契約違反による解除」を指すものと説明されています。

 しかし、その一方で、これを逆の意味で説明している方も複数おり、平野先生もterminationまたはterminateの意味について、「期間の定めのある契約に於いて期間満了により「終了する」場合と、期間の定めの無い契約も含めてデフォールト等の事由により当事者が契約を「終了させる」場合との、双方を含む法律英語である(「国際契約の<起案学>」101頁)と説明しています。おそらく、こちらの方が正しいと思います。

 

 とは言え、英文契約においては、期間満了による終了だろうが、契約違反による解除だろうが、契約違反によらない解除だろうが、統一してterminationと表記することが多く、厳密に言えば両者は違うものの、あまり区別する実益に乏しいというのが実情ではなかろうかと。

 

④ responsibility, liability

 どちらも「責任」と訳する単語です。

 liabilityが「作為・不作為を法的に義務付けられている状態」、すなわち「法的責任」を指すのに対して、responsibilityは、liabilityを根拠づける広義の責任(道義的責任など)を指すという点で両者は区別されています。

 英文契約でよく出てくるのは言うまでもなくliabilityであり、全く使われることがないというわけではないんでしょうけど、responsibilityの登場頻度はかなり少ないように思います。

 

⑤ duty, obligation

 この両者は、上述した責任と同じように、dutyが道義的または倫理的な義務・任務を指すのに対して、obligationが法的義務を指す点で異なるとされていますが、平野先生によれば、obligationは、法律家が多用しがちな遠回し・冗長な法律表現(リーガリーズ)であり、debt、duty、responsibilityなどの現代的表現に言い換えた方が良いとされています(前掲平野・361頁)。

 とはいえ、obligationは今でもよく見かけますし、何だったら意識して、dutyよりもobligationを使うこともあります。本来は避けるべき冗長表現なのかもしれませんが、obligationを使ったとしても間違いとまでは言えないと思われます。

 

⑥ claim, allegation

 どちらも「主張」とか「請求」といった意味に訳されますが、この両者は、異なる概念として捉えられおり、例えば、「Each Party shall defend and settle any claim, action or allegation brought against Other Party.」というように、claimとallegationを使い分けるのが普通です。

(ちなみに、英文契約では、同じような意味を持つ類似の単語を重ねる傾向があります)

 

 私のイメージとしましては、claimが、訴訟外の主張を含むありとあらゆる一切の請求一般であり、allegationが、訴訟上の主張を含む法律上の請求を指すものと区別しています(色々と説明を聞きましたが、よく分からないので、このように分類しています)。

 

⑦ warranty, guaranty

 この両者も一見すると、同じ「保証」という意味で、何がどう違うんだと混乱する単語です。

 田中先生の英米法辞典によりますと、warrantyは、物品等の瑕疵担保責任を指し、guarantyは、他人の金銭債務等の保証責任を指すとされています。ただし、田中先生によれば、物品の瑕疵担保など、本来、warrantyを使うべき場面において、guarantyが用いられるケースもあると指摘しています。

 確かに、商品・サービスの品質保証において、guarantyが用いられているケースもよく見かけるので、取引実務上は、この両者がごちゃごちゃになっている例も少なくない印象を受けます。

 

⑧ right, title

 rightは「権利・権限」という意味であり、titleは「権原」という意味を持っています。

 「権限」と「権原」は、日本法の下でもよく混同される法概念なので有名ですね。「権限」についてはイメージどおりの意味で問題ありませんが、「権原」とは、ある法律行為又は事実行為を正当化するための法律上の原因(法的地位または権利主張の根拠)をいいます。

 例えば、自らが所有する土地甲の所有権に基づき、土地甲を不法に占拠する者に対して妨害排除請求を行う場合、妨害排除請求権が「権限」であり、妨害排除請求権を基礎づける所有権が「権原」です。そのため、titleを「所有権」という意味で用いることもあります。

 

⑨ term, period

 いずれも単純に翻訳すると「期間」という意味の単語であり、始まりと終わりがある一定の時間的長さという意味ではどちらも同じですが、termは、任期や契約期間のように、予め事前に時間的長さが決まっている期間を指すという点において、periodと区別されます。

 なお、termsは「条件」という意味であるため、termとの混同を避ける必要があります。

 

⑩ law, statute, legislation, regulation, rule

 最後に、いずれも「法律」や「規則」などと訳することができる単語たちです。

 まず、lawについて、冠詞なしで使用する場合は、法一般ないし自然法や抽象的規範を意味し、「A law」というように冠詞を付ける場合は、具体的な制定法や判例法を指すとされています。抽象的に「法」と言いたい場合は law を使うイメージです。

 これに対し、statuteは、議会で制定された法律(制定法)を指し、legislationは、国家的権能としての立法や法律制定そのものを指します。regulationは、規則や指導原則を指し、行政規則などの行政立法をイメージすると分かりやすいかと思います。

 ruleは、principle(原則)やdoctrine(法理)に比べたら具体的な概念ですが、イメージ的には「自主的な規範」という感じでしょうか。例えば、毎日3キロウォーキングをするという自主的な行動準則も rule になります。

 

 

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